がいに相つづいて、往々たがいに飛び越えて、疾走していた。時《タイム》は襲撃の譜を鳴らしていた。――エマニュエルは追い越されてしまった。
 フランス精力の歌手たる彼は、師オリヴィエの理想主義をかつて捨てなかった。彼の国民的感情はいかにも熱烈ではあったが、精神的偉大を崇拝する念と融《と》け合っていた。彼はフランスの勝利を詩の中で高唱していたが、それも実はフランスのうちに、現今ヨーロッパのもっとも高遠な思想を、勝利の神アテネを、暴力[#「暴力」に傍点]に復讐《ふくしゅう》する優勝者なる権利[#「権利」に傍点]を、信仰的に崇拝していたからである。――しかるに今や、暴力は権利の心中にさえ眼覚《めざ》めていて、その荒々しい裸体のまま飛び出していた。戦争好きな強健な新時代は、戦いを熱望していて、勝利を得ない前から征服者の心持になっていた。自分の筋肉、広い胸、享楽を渇望してる強壮な官能、平野の上を翔《かけ》る猛禽《もうきん》の翼、を誇っていた。戦って自分の爪牙《そうが》を試《ため》すことを待ち遠しがっていた。民族の壮挙、アルプス連山や海洋を乗り越える熱狂的飛行、アフリカの沙漠《さばく》を横断する叙事詩的騎行、フィリップ・オーギュストやヴィルアルドゥーアンのそれにも劣らないほど神秘的で切実な新しい十字軍、などは国民を逆上さしてしまった。書物の中でしか戦争を見たことのないそれらの若者らは、戦争を美しいものだと訳なく考えていた。彼らは攻撃的になっていた。平和と観念とに疲れはてた彼らは、血まみれの拳《こぶし》をしてる活動が他日フランスの強勢を鍛え出すはずの、「戦闘の鉄碪《てっちん》」を賛美していた。観念論の不快な濫用にたいする反動から、理想にたいする蔑視《べっし》を信条として振りかざしていた。狭い良識を、一徹な現実主義を、国民的利己心を、空威張りに称揚していた。その破廉恥な国民的利己心は、祖国を偉大となすことに役だつ場合には、他人の正義と他の国民性とを蹂躙《じゅうりん》するのをも辞せないものだった。彼らは他国人排斥者であり反民主主義者であって――そしてもっとも不信仰な者までが――カトリック教への復帰を説いていた。それもただ、「絶対なるものに運河を設ける」ための実際的要求からであり、秩序の主権との力のもとに無限なるものを閉じこめんとの実際的要求からであった。そして彼らは、前時代の穏和な囈語《
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