コカールの演説を一つも聞きもらしたことがなく、その言葉を鵜呑《うの》みにし、その諧謔《かいぎゃく》に頤《あご》を打ち開いて打ち笑い、その罵《ののし》りに湯気をたてて憤り、戦闘と約束された天国とに夢中になっていた。翌日になると自分の店で、新聞にのってる演説の梗概《こうがい》を熟読し、自分のためにまた小僧のために高々と読み返した。それをよく味わうために小僧に読まして、一行でも読み落とそうものなら殴《なぐ》りつけた。それで、約束の期限までに品物を渡すことがしばしば遅れた。その代わり仕事は確かなものだった。はく人の足を擦《す》り減らしはしても靴のほうは減らなかった。
 老人は自分の家に十三歳の孫をもっていた。佝僂《せむし》で病身でいじけていたが、小僧の役目をしていた。彼の母親は、十七歳のとき家を捨てて、よからぬ労働者と駆け落ちしたのだった。その労働者は無頼漢となり、やがて捕えられて処刑され、それから姿を消してしまった。彼女は子供のエマニュエルと二人きりになり、家の者からは寄せつけられなかったが、エマニュエルを大事に育てた。情夫にたいする愛情と憎しみとを子供のほうへ向けていた。彼女は病的なまでに
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