屋はまた靴の甲革《こうかわ》をたたき始めて、相手が逃げていったのも構わずに、途切れた先刻の話を終わりまで語りつづけた。
 彼は五十六歳だった。元気な気むずかしい様子、太い眉《まゆ》の下の冷笑的な小さな眼、蓬髪《ほうはつ》の上に卵形にもち上がってる禿《は》げた脳天、毛むくじゃらの耳、ひどく笑うときには井のようにうち開く前歯のぬけた黒い口、靴墨で真黒な太い鋏《はさみ》でよく手いっぱい刈り取っている逆立った汚《きたな》い髯《ひげ》。彼は町内では、フーイエ親父《おやじ》だのフーイエットだのラ・フーイエットお父《とっ》つあんだのという名で知られていた――怒らせるためにはラ・ファイエットと呼ばれた。というのは、この老人は政治上では過激思想にとらわれていた。ごく若いころパリー臨時政府に関係したことがあって、死刑を宣告されたがあとで流罪に処せられたのだった。彼は過去の思い出を自慢にしていて、バダンゲやガリーフェやフートリケなどをいっしょにして恨んでいた。彼は革命者らの会合につとめて出て来て、コカールに惚《ほ》れ込み、コカールがみごとな髯と雷のような声とで予言する復讐《ふくしゅう》観念に魅せられていた。
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