を観察して面白がっていた。そして大男のカネーのような、やや滑稽《こっけい》な善良な者たちにたいしては、彼は寛大な同情心をもっていた。彼らの凡庸さを、彼はオリヴィエほど不快には思わなかった。やさしい冷笑的な興味で彼らの皆をながめていた。彼らが演じてる芝居から自分は離れてると思っていた。そしてしだいにそれへ巻き込まれることには気づかなかった。風が吹き過ぎるのを見てる傍観者にすぎないとみずから考えていた。がすでに風は彼の身に触れて、塵埃《じんあい》の渦巻《うずまき》中に彼を引込みつつあった。
社会劇は二重になっていた。知識階級の人々が演じてるのは劇中の劇だった。民衆はそれにほとんど耳を貸していなかった。民衆自身の劇こそほんとうの劇だった。しかしその筋をたどるのは容易でなかった。民衆自身もよく理解していなかった。あまりに意外なことばかりが多く含まれていた。
それは動作よりも言葉のほうが多くないからではなかった。中流人にしろ下層民にしろすべてフランス人は、パンにおいて大食であると同じく言葉においても大食である。しかし皆同じパンを食べてはしない。微細な味覚にたいしては贅沢《ぜいたく》な言葉が
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