あり、飢えたる口にたいしてはいっそう養分に富んだ言葉がある。たといその各語がみな同じだとしても、同じ方法で捏《こ》ね上げられたものではない。味と香《かお》りとが、意味がそれぞれ異なっている。
オリヴィエは、初めて民衆の会合に臨んでそのパンを味わったときには、それを食べる気になれなかった。その断片が喉《のど》につかえた。思想の平板さ、表現の無色粗野な重苦しさ、曖昧《あいまい》な概説、幼稚な論理、連絡もない抽象と事実とがへたに捏ね交ぜられてるその凝汁《マイヨネーズ》、などに彼は胸がむかついた。言語の不潔さも、俗語の活気で償われてはいなかった。それは新聞紙の用語であり、有産階級の修辞法の古着屋から拾い出して来られた、艶《つや》の失せた襤褸《ぼろ》であった。オリヴィエはことに簡素でないことに驚かされた。文学上の簡素は自然的なものではなくて、習得されたものであり、優秀者が骨折ってかち得たものであることを、彼は忘れていたのである。都会の民衆は簡素ではあり得ない。彼らはいつも好んで技巧に過ぎた表現を求める。オリヴィエはそういう誇大な文句が聴衆に与え得る効果を理解できなかった。彼はその鍵《かぎ》をも
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