てよ。

 夏の終わりごろ。パリーの一友人がスイスを通りかかって、クリストフの隠栖《いんせい》を見出した。そして彼に会いに来た。それは音楽批評家であって、彼の作曲にいつもりっぱな批評をくだした男だった。一人の知名な画家が同伴していた。この画家は音楽好きで、同じくクリストフの賞賛者だった。彼らはクリストフに、彼の作品の顕著な成功を知らした。ヨーロッパの至る所で演奏されてるのだった。クリストフはその消息にあまり興味を示さなかった。彼にとっては過去は滅びていたし、それらの作品はもう物の数でなかった。彼は訪客の求めによって、最近に書いたものを見せた。客はそれを少しも理解しなかった。クリストフが狂人になったのだと考えた。
「旋律《メロディー》もなければ、拍子もなければ、主題の働きもない。一種の流動的な核心、溶解してる物体で、まだ冷めきらずにいて、いかなる形をも取るが、一つの定形もそなえてはいない。他に類のないものだ。渾沌《こんとん》の中の光だ。」
 クリストフは微笑した。
「ほぼそんなものかもしれない。」と彼は言った。「秩序の覆面を通して輝く渾沌の眼[#「秩序の覆面を通して輝く渾沌の眼」に傍点]
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