解した。だれも確実に自己の主ではない。夜を徹して警戒しなければいけない。もし眠るならば、その力がわれわれのうちに飛び込んできて、われわれを運び去ってゆく……。しかもいかなる深淵《しんえん》の中へであるか! あるいはまた、その奔流は引き去って、われわれを乾燥した河床の中に取り残す。闘争せんがためには、ただ意欲するだけでは足りない。欲するときに、また欲する場所に、愛や死や生を吹き起こす不可知なる神、その前にひれ伏さなければいけない。人間の意志はこの神の意志なしには何もなし得ない。神はただ一瞬のうちに、多年の勤労と努力との結果を消滅させ得る。そしてもし欲するならば、泥濘《でいねい》から永遠なるものを湧出《ゆうしゅつ》させ得る。創作する芸術家ほど、神の意のままであることを深く感ずる者はない。芸術家にして真に偉大であるならば、神霊[#「神霊」に傍点]の口授することをしか口にしないからである。
 そしてクリストフは、毎朝ペンを執る前に跪拝《きはい》した老ハイドンの知恵を理解した。……戒心し祈れよ。われわれとともにいますよう神を祈れよ。生の神霊[#「神霊」に傍点]と愛深き敬虔《けいけん》なる交渉を保
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