に彼は身を任した。世界に流れる創造力にふたたびとらえられた。世界の富が恍惚《こうこつ》の情で彼を満たした。彼は愛していた。彼は彼自身であるとともに、また隣人でもある[#「ある」に傍点]のだった。そしてすべてが、足に踏みしだく草から握りしめる人の手に至るまで、みな彼には「隣人」だった。一本の樹木、山の上の一片の雲の影、牧場の息吹《いぶ》き、星辰《せいしん》の群がってる騒々しい夜の空……それらを見ても血が湧きたった……。彼は語りたくもなく、考えたくもなく……ただ笑いたく泣きたく、その生ける玄妙のうちに融《と》け込みたいばかりだった。……書くこと、しかしなんのために書くのか? 名状しがたいものを書くことができようか?……しかしそれができようとできまいと、彼は書かねばならなかった。それが彼の掟《おきて》だった。彼はどこにいても、諸種の観念が電光のように落ちかかってきた。猶予してはいられなかった。そんなとき彼は、手当たり次第のもので手当たり次第のものの上に書きしるした。自分自身から迸《ほとばし》り出るそれらの楽句の意味を、自分でも説き得ないことが多いほどだった。そして書いてる間にも、他の観念がつ
前へ
次へ
全367ページ中356ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング