近づくと、恐れに駆られて足を早めた。階下に行って、寂しい庭に最後の一|瞥《べつ》を投げた。そして盗人のように逃げ出した。凍った霧が針のように肌《はだ》を刺した。彼は見知りの顔に出会いはすまいかと恐れて、人家の壁に沿って行った。停車場へついた。ルツェルン行きの汽車に乗った。第一の駅で、ブラウンへ手紙を書いた。急な用事で数日間町から出かけることになって、かかるおりに彼を打ち捨てて行くのが心悲しいと言い、一つの宿所を指定して、どうか様子を知らしてくれと願った。ルツェルンでゴタールド線の列車に乗った。夜中に、アルトルフとゲシェーネンとの間の小駅に降りた。その駅の名前を彼は知らなかった、永久に知らなかった。彼は駅の近くの見当たり次第の宿屋へはいった。水|溜《た》まりが道をさえぎっていた。雨がざあざあ降りしきっていた。夜通し降った。翌日も終日降った。滝のような音をたてて、雨水がこわれた樋《とい》から落ちていた。空も地も水に浸って、彼の考えと同じく融《と》け去るかのようだった。彼は汽車の煙の匂《にお》いのする湿った夜具にくるまって寝た。でもじっと寝ていることができなかった。アンナが陥ってるいろんな危
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