険のほうへばかり考えが向いて、まだ自分の苦しみを感ずるだけの隙《ひま》がなかった。世間の悪意を転じさせてアンナより他のほうへ向けねばならなかった。熱に浮かされて彼は奇怪な考えを起こした。町で多少交際を結んでいたわずかな音楽家たちの一人、菓子屋を営んでるオルガニストのクレブスへ、手紙を書こうと思いついた。そして、心《ハート》の問題でイタリーへやって行くこと、ブラウンの家へ足を留めたときはすでにその情熱にかかっていたこと、それからのがれようと試みたこと、しかし自分の力は及ばなかったこと、などをクレブスへもらした。全体の文面は、クレブスが了解し得るほど十分明白であり、またクレブスが自分の考えでいろいろつけ加え得るほど十分ぼんやりしていた。クリストフは秘密を守ってくれと願った。そして彼はこの善良な男が病的な饒舌《じょうぜつ》家であることを知っていたし、手紙を受け取るや否や町じゅうに触れ歩くだろうとの期待を――しごくもっともな期待を――いだいていた。そしてなお世間の考えをそらさせるために、クリストフはその手紙を、ブラウンとアンナの病気とにたいするごく冷淡な数言で結んだ。
 彼はその残りの夜とつぎ
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