、いつもの滑《なめら》かな冷たい床板の感触ではなしに、柔らかにつぶれる生暖かい塵《ちり》を感じた。彼女は身をかがめて、手でさわってみてそれと悟った。細かな灰が薄《うっ》すらと、二、三メートルの間廊下じゅうにまいてあった。それはベービの仕業であって、ブルターニュの古詩の中で、イズーの寝床にやってゆくトリスタンをとらえるために、小人のフロサンが用いたあの古い策略を、知らず知らず考えついたのだった。善《よ》いことにも悪いことにも、ある少数の見本があらゆる時代に役だつというのは、なるほど真実である。それこそ、世界の賢い経済を示す大なる証拠である。――アンナは少しもためらわなかった。一種の軽蔑《けいべつ》的な豪《えら》がりからやはりつづけて足を運んだ。クリストフの室にはいっても、不安ではあったがなんとも言わなかった。しかし帰りに、彼女は暖炉の箒《ほうき》を取って、通り過ぎたあとで灰の上の足跡を丁寧《ていねい》に消し去った。――その朝アンナとベービとが顔を合わせたとき、一人は例の冷やかな様子をし、一人は例の微笑を浮かべていた。
ベービのもとへはときどき、彼女より少し年上の親戚《しんせき》の男が訪
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