うふたたびもどるまいと決心していた。彼は疲労でおのれをくじこうとした。方々へ行き、苦しい運動をし、舟を漕《こ》ぎ、歩行し、山に登った。が何物も情火を消すにいたらなかった。
 彼は情熱の手中にあった。それは天才の性質の必然性である。もっとも貞節な人々、ベートーヴェンやブルックナーでさえ、たえず愛せざるを得ないのである。あらゆる人間的な力が天才のうちでは高調されている。そしてそれらの力は想像力によって招来されてるので、彼らの頭脳はいつも情熱にとらえられる。たいていは一時の炎にすぎなくて、たがいに滅ぼし合い、またどれも皆、創造的精神の大火にのみ込まれる。しかし鍛冶《かじ》の熱が魂を満たさなくなるときには、無防禦な魂は、なくて済ませないそれらの情熱に委ねられる。魂は情熱を欲し情熱を創《つく》りだす。情熱のために全身を呑噬《どんぜい》されなければやまない。――その上にまた、肉体を侵す酷烈な欲望のほかに、人生に疲れ欺かれた人を慰安者の母性的な腕のほうへ推し進める、情愛の欲求がある。偉人はだれよりもいっそう子供である。一人の女に信頼し、やさしい手のひらの上に、その両|膝《ひざ》の間の長衣の凹《くぼ》
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