女中はそのあとをつけて来るような振る舞いをした。始終何かを取りに来たりした。アンナが急いで閉めようとしない半開の扉《とびら》のそばで、廊下に立ってこそこそやっていた。あたかも二人の様子を窺《うかが》ってるかのようだった。アンナはいつまでも終わらない仕事をかかえて、窓のそばに腰をおろした。クリストフは書物を開いて、明るみのほうへ背を向けて肱掛椅子《ひじかけいす》にすわり込んだが、別に読むでもなかった。アンナは彼の横顔を見得る位置にあって、壁のほうを向いてる彼の苦しんだ顔つきを、一目で見てとった。そして残忍な様子で微笑を浮かべた。家の屋根から、また庭の樹木から、雪融《ゆきど》けの水が砂の上にしたたって、ささやかな音をたてていた。遠くには、街路で雪合戦をしてる子供たちの笑い声がしていた。アンナはうとうとしてるかのようだった。クリストフは沈黙に悩まされた。苦しさに叫び出したいほどだった。
ついに、女中は下の階に降りていって、外に出かけた。クリストフは立ち上がり、アンナのほうへ向き返った。そしてこう言おうとした。
「アンナ、アンナ、私たちはどうしたんでしょう?」
アンナは彼をながめていた。執
前へ
次へ
全367ページ中267ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング