てすわりながら、例の夢想に沈んでいた。彼女は空《くう》を見つめていたが、クリストフはその眼つきの中に、あの晩と同じ異様な熱情の輝きが過ぎるのを見たような気がした。彼は書物を閉じた。彼女は見守られてるのを感じて、また仕事の針を運び始めた。その伏せた眼瞼《まぶた》の下から、彼女はやはりすべてのことを見てとっていた。彼は立ち上がって言った。
「いらっしゃい。」
彼女はまだ多少不安の影がさしてる眼を、彼の上にじっとすえ、その意をさとって、彼のあとについていった。
「どこへ行くんだい?」とブラウンは尋ねた。
「ピアノのところへ。」とクリストフは答えた。
彼はひいた。彼女は歌った。すぐに彼は、最初のときと同じ彼女を見出した。彼女はあたかも自分の世界にでもはいり込むように、その悲壮な世界のうちに難なくはいり込んだ。彼はなお試《ため》しつづけて、も一つの楽曲をもち出し、つぎにはさらに激烈な楽曲をもち出しながら、彼女のうちに熱情の群れを解き放ち、彼女を興奮させ、みずからも興奮していった。やがて激情の域に達すると、彼はぴたりとひきやめ、彼女と眼を見合わせながら尋ねた。
「結局あなたはどういう人でしょう
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