いてきたんだい?……なんだって、お前が差し出口をしようというのか。お前に何がわかるものかね。」
 アンナは顔を少し赤らめて、口をつぐんだ。ブラウンはなお言った。
「恋するときには滅ぼしたいんだって?……それこそこの上もなく馬鹿げたことだ。自分の大事なものを滅ぼすのは、自分自身を滅ぼすことだ……。まったくその反対さ。愛するときには、自然の感情として、自分によいことをしてくれる者によいことをしてやり、その人を大事にし、その人を保護し、その人に親切をつくし、何事にも親切でありたがるものだ。愛することこそ、地上の楽園だ。」
 アンナは影の中に眼をすえながら、彼を勝手に話さしておいた。そして頭を振りながら、冷やかに言った。
「人は愛してるときには親切ではありません。」

 クリストフはふたたびアンナが歌うのを聞いてみようとはしなかった。ある幻滅、もしくは何かが……恐れられた。なんであるかは彼にもよくわからなかった。アンナも同じ恐れをいだいていた。彼が演奏し始めるとき、彼女はその客間にいることを避けた。
 十一月のある晩、彼は暖炉のそばで書物を読んでいた。見ると、アンナは仕事を膝《ひざ》の上に置い
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