ある晩クリストフが即興的にピアノをひいていると、アンナは彼の演奏中にしばしばなすとおり、ふいに立ち上がって出て行った。音楽を嫌《いや》がってるがようだった。クリストフはもうそれを気にとめなかった。彼女がどう考えようと平気だった。そしてなおひきつづけた。それから、その即興の曲を書き止めてみたくなって、ひくのをやめ、必要な紙を取りに自分の室へ駆け出した。隣の室の扉《とびら》を開き、俯向《うつむ》きながら暗闇の中へつき進んでゆくと、その入り口にじっと佇《たたず》んでる人の身体に激しくつき当たった。アンナだ……。その衝突と驚きとのために、彼女は声をたてた。クリストフは怪我《けが》でもさせやしなかったかと心配して、やさしく彼女の両手を取った。その手は冷たかった。彼女は身震いしてるらしかった――おそらく驚きのためだったろう? 彼女は口ごもりながら、そこにいたわけを曖昧《あいまい》に述べたてた。
「食堂でちょっと……捜していましたので。」
何を捜していたかを彼は聞きもらした。たぶん彼女もそれを言わなかったのだろう。物を捜すのに燈火もつけないでうろうろしてるのが、彼には変に思われた。しかし彼は
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