アンナのおかしな行動には馴《な》れきっていたので、別に注意もしなかった。
一時間ばかりたって彼は、ブラウンやアンナといっしょに晩を過ごすことになってる、小さな客間にもどって来た。ランプの下でテーブルについて、書きつづけた。アンナはそのテーブルの右手の端にすわって、かがみ込んで仕事をしていた。二人の後ろで、暖炉のそばの低い肱掛椅子《ひじかけいす》にすわって、ブラウンは雑誌を読んでいた。三人とも黙っていた。庭の砂の上に、間を置いてばらばらと降る雨の音が聞こえていた。クリストフはまったく一人きりの気特になるために、斜めにすわってアンナへ背中を向けていた。彼の前の壁には大鏡がついていて、テーブルやランプや、仕事にかがみ込んでる二人の顔を、写し出していた。クリストフはアンナからながめられてる気がした。初めはそれをなんとも思わなかった。けれどもやがて、その考えがしつこくつきまとって心が乱されたので、鏡のほうへ眼をあげて見た……。果たして彼女は彼をながめていた。なんという眼つきだろう! 彼はそれを見守りながら息を凝《こ》らして堅くなった。彼女は彼から見守られてることを知らなかった。ランプの光が彼女
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