を堪え得ないで、彼は熱に浮かされたように立ち上がった。室の外にたどり出で、階段を降りていった。他人にすがりつきたい本能的な臆病《おくびょう》な要求に駆られていた。しかも、もし見知らぬ声を聞いたらすぐに逃げ出したかもしれなかった。
 ブラウンは食堂にいた。例のとおり大袈裟《おおげさ》な友情を示しながらクリストフを迎えた。そしてすぐにパリーでの出来事を尋ね始めた。クリストフは彼の腕をとらえた。
「いや、」と彼は言った、「何にも尋ねないでくれたまえ。あとのことにして……。悪く思っちゃいけないよ。僕は今話せないんだ。たまらなく疲れてる、疲れきってるんだ……。」
「わかってるよ、わかってるよ。」とブラウンはやさしく言った、「神経が痛められてるんだ。 数日前からの感動のせいだ。話さないがいい。何にも遠慮しちゃいけない。勝手にしていたまえ。自分の家同様だ。少しも差し出がましいことはしないようにするよ。」
 彼はその言葉を守った。客を疲らすまいとして、平素とまったく反対の振る舞いをした。クリストフの前では妻ともろくに話をしなくなった。小声で口をきき爪立《つまだ》って歩いた。家じゅうがひっそりしてしまっ
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