トフは傷ついた獣のような本能から一生懸命になって、自分にとってまったくの他人ではない者のもとへ行こうとした。

 一面の煙と雨との下を彼は、その薄暗い赤い町へはいった。何にも眼に止めず、道を尋ね、迷ったり引き返したりして、やたらにうろつきながら、町の中を歩いていった。もう力も尽きはてていた。緊張した意志を最後にも一度引きしめて、段々になってる険しい小路を上らなければならなかった。薄暗い教会堂のまわりに人家が密集してる狭い丘の頂まで、その路は上っていた。赤い石でできてる段が六十ばかりあって、三つか六つずつ一団になっていた。その一|団《かたま》りの石段の間には、ごく狭い平地があって、人家の入り口になっていた。その平地ごとにクリストフは、よろめきながら息をついた。上のほうでは、塔の上に烏《からす》が飛び回っていた。
 ついに彼は、ある戸口に捜してる名前を読み取った。彼は戸をたたいた。――小路はまっ暗だった。彼は疲れきって眼を閉じた。心のうちも闇夜《やみよ》だった……。幾世紀も過ぎた……。

 狭い戸口が少し開いた。敷居の上に一人の女が現われた。その顔は闇に包まれていた。しかし長い廊下の向こう
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