動きもできないだろう、というような気がした。彼はなお一日歩き通した。もうパンを買うにも一スーの金もなかった。そのうえ彼は村を通るのを避けた。理性を離れた妙な感情から、死にたがりながらも捕縛を恐れていた。彼の身体は狩り立てられて逃げてる動物のようだった。肉体上の悲惨なことども、疲労、飢餓、疲弊した一身から起こってくる人知れぬ恐怖などは、一時精神上の困苦を打ち消していた。その精神上の困苦とともに閉じこもってそれをかめしめることのできる隠れ場を見出すこと、そればかりを彼は求めていた。
彼は国境を越えた。遠くに町が見えた。細長い鐘楼の塔や工場の煙筒などがそびえていて、それらの煙筒から立つ長い煙は、雨の中を灰色の空中に、黒い川のようになって皆同じ方向へ単調に流れていた。彼はもう倒れそうになっていた。そのとき彼は、この町に一人の知人がいることを思い出した。同郷出身の医者で、エーリッヒ・ブラウンとかいう名前で、前年クリストフがある成功を博したとき、旧誼《きゅうぎ》を思い起こしてくれとて手紙をよこしたのだった。ブラウンがいかに凡庸な者であろうとも、また自分の生活にいかに無関係な者であろうとも、クリス
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