のために、官能はことごとく過敏になっていた。
 突然、扉《とびら》を開ける音が聞こえた。なんとも言えぬある感情のために、彼は初め振り向かなかった。一つの手が肩にのせられるのを感じた。そこで振り向いてみると、オリヴィエが微笑《ほほえ》んで立っていた。彼は別に驚かなかった。そして言った。
「ああ、とうとう来たね!」
 その幻影は消えた……。
 クリストフはテーブルをつきのけ椅子《いす》をつき倒しながら猛然と立ち上がった。髪の毛は逆立っていた。彼は歯をかち合わせ蒼白《そうはく》になって一瞬間たたずんだ……。
 そのときから――(何にも知るまいとし、俺《おれ》は何にも知らないのだと繰り返しても、駄目だった)――彼はすべてを知った。何がやって来るかを確かに知っていた。
 彼は室にじっとしてることができなかった。町に出て一時間ばかり歩いた。帰ってくると、旅館の玄関で、門番が一通の手紙を渡した。あの[#「あの」に傍点]手紙だ。彼はそれが来てることを確かに知っていた。手紙を受け取りながら手が震えた。読むために室に上がっていった。手紙を開いた。オリヴィエが死んだことを読み取った。そして彼は気を失った。

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