…。オリヴィエはちょっと深淵《しんえん》から浮かび上がった。エマニュエルの唇《くちびる》と涙とを手の上に感じた。弱々しく微笑《ほほえ》んで、少年の頭に自分の手をやっとのことでのせた。その手がどんなにか重かった!……彼はふたたび闇《やみ》に沈み込んだ……。
瀕死《ひんし》の彼の頭のそばには、枕の上に、五月一日の小さな花束、数茎の鈴蘭《すずらん》を、オーレリーは置いていた。締まりの悪い水口から、中庭の桶《おけ》に水がぽたぽた垂《た》れていた。彼の頭の奥で、あたかも消えかかってる燈火のように、いろんな面影が一瞬間ひらめいた……。一軒の田舎家、壁には藤蔓《ふじづる》がからまり、庭には子供が一人遊んでいた。その子供は芝生《しばふ》の上に寝ころんでいた。噴水が石の水盤の中に飛び散っていた。一人の小さな娘が笑っていた……。
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二
彼らはパリーから出た。霧に埋もれてる広い平野を横ぎっていった。十年前にクリストフがパリーへ到着したときと同じような晩だった。あのときすでにクリストフは今と同様に逃亡者だった。しかしあのときは、友が、自分を愛してくれる者が、生きていた。そし
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