、彼はただちに見てとっていたのである。しかし彼はまた、彼らを引きずってゆく運命的な力をも見てとっていた。クリストフまでが知らず知らず水の流れに従ってることを、彼は気づいた。流れに運ばれるのを本望としてる彼については、流れのほうで好まなかった。彼は岸に残ったままで、水の流れ行くのをながめていた。
 それは強い流れだった。たがいに押し合いぶつかり合い融《と》け合って、湧《わ》き立つ泡《あわ》や衝突する渦巻《うずまき》をこしらえてる、熱情と利害と信念との巨大な塊《かたまり》を、その流れは押し起こしていた。首領らがその先頭に立っていた。彼らはあとから押し進められてたのだから、皆のうちでもっとも自由でなかった。またおそらく皆のうちで、もっとも信じていない連中だった。彼らも以前は信じたことがあった。そして、彼らがあれほど嘲笑《あざわら》った牧師らのように、昔の祈誓の中に信仰の中に閉じこめられて、それを最後まで主張しなければならなくなっていた。彼らのあとにつづいてる群集の大部隊は、兇暴で不確信で浅見《せんけん》だった。その大多数の者は、流れが今はそれらの理想郷へ向かってるからというので偶然に信じてるのだった。一度流れの方向が変わったならば、もう今晩にも信じなくなるかもしれなかった。多くは、行動を求め事変を願ってるために信じていた。ある者らは、常識の欠けた理屈好みの理論に駆られて信じていた。ある者らは、心の温良なために信じていた。抜け目のない者らは、それらの観念を戦いの武器としてしか使用せず、一定の賃金のために、労働時間数減少のために、戦っていた。もっとも欲張りな者らは、自分の悲惨な生活の太々しい復讐《ふくしゅう》を、ひそかに望み企《たくら》んでいた。しかし彼らを運んでいる流れは彼らよりもさらに賢くて、どこへ行くべきかを心得ていた。それが旧世界の堤防にぶつかって一時砕かるべき運命にあっても、あえて意に介するに及ばなかった。社会的な革命は現今では鎮圧されるだろうということを、オリヴィエは予見していた。しかし彼はまた知っていた、革命がその目的を達するのは、勝利によるも失敗によるも同じことであると。なぜならば、圧迫者が被圧迫者の要求を正当と認めるのは、その被圧迫者から恐怖を覚えさせらるるときにおいてのみだからである。かくて、革命者らの不正な暴力もやはり、彼らの主旨の正義と同じく彼らの主旨
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