に役だっていた。暴力と正義とは共に、人類の群れを導く盲目確実な力の筋書きの一部をなしていた……。

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 主《しゅ》に呼ばわれたる爾《なんじ》ら、爾らのいかなるものなるやを考えみよ。肉よりすれば、爾らのうち多くの賢き者なく、多くの強き者なく、多くの尚《たか》き者あるなし。されど主は、賢き者を惑わしめんがために、この世の愚かなることどもを選みたまえり。強き者を惑わしめんがために、この世の弱きことどもを選みたまえり。今あることどもを廃《すた》れしめんがために、この世の卑しきことどもと、蔑《さげす》まれしことどもと、あるなきことどもとを選みたまえり……。
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 とは言え、事物を統ぶる主が何物であろうとも――(理性[#「理性」に傍点]であろうともあるいは没理性[#「没理性」に傍点]であろうとも)――また、産業革命主義によって準備されたる社会組織が、将来のために一つの相対的遊歩を建設しているとしても、新世界を開きもしないこの卑俗なる戦いのうちに、幻影と献身との全力を注ぎ込むのは、クリストフや自分にとって労に価することであるとは、オリヴィエは考えなかった。革命にたいする彼の神秘な希望は裏切られた。彼には民衆が他の階級よりより良きものだとは思えなかったし、より真面目《まじめ》だともほとんど思えなかった。ことに民衆も他の階級と大して異なってはいなかった。
 利益と泥《どろ》まみれの熱情との激流のさなかにあって、オリヴィエの眼と心とは、あたかも水上の花のように彼方《かなた》此方《こなた》に浮き出してる、独立せる人々の小島のほうへ、ほんとうに信じてる人々の小さな群れのほうへ、ひきつけられるのであった。優秀者は群集の中に交わることを、いかに欲しても駄目である。優秀者は常に優秀者のほうへ行くものである――あらゆる階級とあらゆる党派との優秀者のほうへ――火をもってる人々のほうへ。そして、その火が消えないように監視することこそ、神聖なる義務である。
 オリヴィエはすでに選択をしてしまっていた。

 彼の家から数軒隔たった所に、街路より少し低い所に、古靴屋《ふるぐつや》の店があった――店と言っても、数枚の板を釘《くぎ》付けにして、ガラスやガラス代わりの紙が張ってあった。街路から三段降りて中にはいるようになっていて、中では背をかがめなければ立っておれなか
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