「ジュールナル」に傍点]の友人らの力をかりて世に吹聴《ふいちょう》させようと、彼女に言い出した。しかし彼女は、人に讃《ほ》められるのはうれしくはあるが、そのための運動はしないでほしいと願った。競争したり苦心したり他人の嫉妬《しっと》心を招いたりすることを、彼女は欲しなかった。平和のままでいたかった。人の口にのぼらなくとも、それがかえって結構だった。彼女には羨望《せんぼう》の念がなかった。他の熟練家らの技能に接するとまっ先に恍惚《こうこつ》となった。また野心も欲望もなかった。あまりに精神上の怠《なま》け者だった。何か直接のはっきりした事に取りかかっていないときには、まったく何にもしていなかった。夢想さえしていなかった。夜寝床に入ってさえそうだった。眠っているか、さもなくば何にも考えていなかった。老嬢で終わりはすまいかと恐れてる世の娘たちの生活を毒する、結婚についてのあの病的な妄想《もうそう》をも、彼女はもっていなかった。いい夫をもちたくはないかと聞かれると、彼女は言った。
「まあ! 定期収入の五万フランとでもなぜおっしゃらないんですか。人のもってるものは取り上げてやるに限ります。向こうか
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