くは天才をもってるクリストフのような熱情家らを感嘆していた。しかし彼らをうらやみはしなかった。彼らのような不安や天才などをもっていたとて、それを彼女はどうすることができたろうか?
 それではどうして彼らの音楽を彼女は感じ得ていたのか? それは彼女自身でも説明しかねたに違いない。しかし彼女が知ってたことは、自分が彼らの音楽を感じてるという事実だった。他の熟練家らよりも彼女のまさってる点は、その肉体上および精神上の頑健《がんけん》な平衡であった。私的熱情のない彼女の生の豊満のうちに、他人の熱情は花を咲かすべき肥沃《ひよく》な土地を見出していた。彼女はそれから少しも乱されなかった。芸術家を噛《か》みつくしたそれらの恐ろしい熱情を、彼女はその活力を少しも失わせないで演出していたが、その害毒を身に受けることはけっしてなかった。ただ力と後の快い疲労とを感ずるばかりだった。演奏を終えると、汗まみれになってぐったりしていた。それでも静かに微笑を浮かべて、そしてうれしがっていた。
 クリストフはある晩彼女の演奏を聴《き》いて、その演奏振りに驚かされた。音楽会が終わって握手をしに行った。彼女はそれを感謝し
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