駄《むだ》にしたくなかった。――がそれはすでにもう過去であった。あたかも、汽車の出発前の待つ間が長引くとき、停車場の歩廊《プラット・ホーム》の上でかわす、あの悲しい別れの言葉に等しかった。あくまでも居残り、見かわし、言葉を交えようとする。しかし心はもうそこにない。友はすでに出発してしまってるのだ……。クリストフは話をしようとつとめた。けれど、オリヴィエのうわの空の眼つきを見ると、中途で言葉を切って、微笑を浮かべながら言った。
「君の心はもう遠くに行ってるんだね。」
オリヴィエは当惑して弁解した。友と最後の親しい時を過ごすさいに、心を他処《よそ》にしてたことを見て、みずから悲しくなった。しかしクリストフは彼の手を握りしめた。
「さあ遠慮するなよ。僕もうれしいのだ。夢想にふけるがいいよ。」
二人は窓ぎわにじっと相並んで肱《ひじ》をつき、暗い庭をながめていた。ややあって、クリストフはオリヴィエに言った。
「君は僕から逃げようとしてるんだろう。これから僕の手を脱すると思ってるんだろう。そして今ジャックリーヌのことを考えてるんだね。だが僕は君をとっつかまえてみせるよ。僕もジャックリーヌのこと
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