ピストルを一発みずから自分の身に放った。彼女は即死しはしなかった。がその光景は常に彼の眼にありありと浮かんだ……。こういう狂気な娘どもはどんなことをしでかすかわかったものではない。彼は胸にどきりとした……。
「死にたけりゃ、勝手に死ぬがいいさ。気の毒の至りだ。馬鹿者め!」とは言え、いろいろ手段をめぐらし、承諾を装って時間を延ばし、穏やかにジャックリーヌをオリヴィエから引き離すことも、彼にはできるはずだった。しかしそうするには、手にあまるほどの心にもない労力を費やさなければならなかった。そのうえ彼は気が弱かった。ジャックリーヌへ「いけない」と激しく言ったというだけで、今ではもう、「よろしい」と言ってやりたい気になっていた。要するに、人生のことはだれにもわかるものではない。娘のほうがおそらく道理かもしれなかった。肝要なことは愛し合うということである。オリヴィエはしごく真面目《まじめ》な青年で、おそらく才能があるのかもしれないということを、ランジェー氏は知らないでもなかった……。彼は承諾を与えた。

 結婚の前夜、二人の友は夜ふけまでいっしょに起きていた。なつかしい時期の最後の時間を少しも無
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