皮肉な言を放ってやった。クリストフはそれが聞こえないふうをした。しかしさらに鋭い矢が放たれると、言葉を途切らして、無言のうちに反抗した。そしてまた言いつづけた。あるときには、テーブルを拳固《げんこ》でたたいて言った。
「私があなたを訪問して来たのは、私にとってはあまり愉快なことでないと思っていただきましょう。あなたのある種の言葉を取り上げないためには、私はどんなにか我慢してるんです。しかし私はあなたにお話しするの義務を帯びてると思っています。そしてお話ししてるのです。私が自分自身を忘れてるのと同じに、あなたもこの私を忘れてくだすって、私の申すことをよく考えて下さい。」
ランジェー氏は耳を傾けた。そして自殺の意図を聞くと、肩をそびやかして笑う様子をした。しかし彼は心を動かされた。彼は物わかりがよかったから、そういう嚇《おど》かしを冗談と見なしはしなかった。若い娘は恋に駆られると狂気|沙汰《ざた》になることを、考慮に入れなければならないと知っていた。昔、彼の情婦の一人で、笑い好きな気の弱い娘があって、その大袈裟《おおげさ》な言葉をとうてい実行し得はすまいと彼が思ってるうちに、彼の眼の前で
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