をもみ、あちこちの医者にかかっていた。どの医者も偶々に彼女にとっては救い主[#「救い主」に傍点]だった。それも二週間ばかりのことで、やがて他の医者の番となるのだった。彼女は何か月も家を離れて、ごく費用のかかる療養院へはいり、そこでばかばかしい療法を敬虔《けいけん》に守っていた。娘や夫のことをも忘れてしまっていた。
ランジェー氏は夫人ほど無頓着《むとんじゃく》ではなくて、娘の情事に気づき始めた。父の嫉妬《しっと》心から感づいたのだった。彼はジャックリーヌにたいして、世の多くの父親が娘にたいしていだいていながら自認したがらない、あの謎《なぞ》のような愛情をもっていたし、自分の血から成ってる者のうちに、自分であってしかも女である者のうちに、再生するという、あの神秘な肉感的なほとんど神聖な好奇心をもっていた。人の心のそういう機密のうちには、知らないほうがむしろ健全である多くの影と光とが存している。ランジェー氏はこれまで、小さな青年らを娘が悩殺してるのを見て、面自がっていた。そういうふうに婀娜《あだ》っぽい空想的なしかも聡明《そうめい》な――(彼自身と同じような)――娘を、彼は好んでいた。しか
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