その知力にずいぶん魅せられていた。いっそう父を愛したかったし、父を気の毒がりたかった。しかしランジェーは、人から気の毒がられる必要をもたないらしかった。そして娘のひどく興奮した精神には、ある疑いが、前のよりいっそう恐ろしい疑いが起こった――父は何にも知らないのではないが、何にも知らないほうがかえって便利だと思っていて、自分だけ勝手に行動しさえすれば他のことはどうでもよいとしてるのだ、という疑いが起こった。
するとジャックリーヌは、もうどうにもならない気がした。彼女は両親を軽蔑《けいべつ》しかねた。両親を愛していた。しかしもうこのままの生活をつづけることはできなかった。シモーヌ・アダンにたいする友誼《ゆうぎ》も、なんの助けともならなかった。この旧友の弱点を彼女は厳格に批判した。また自分自身をも容赦しなかった。自分のうちに醜いものや凡庸なものを認めて苦しんだ。そして必死となってマルトの清浄な思い出にすがりついた。しかしその思い出もしだいに消えていった。日々の波がつぎつぎにそれを覆《おお》いかぶせて、その痕跡《こんせき》を洗い去るようだった。そうなったらもう何もかも駄目《だめ》である。自分
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