女も客も別にまごつかなかった。そしてしかつめらしく話しつづけた。ジャックリーヌは茶の支度をしていたが、びっくりして茶碗《ちゃわん》を取り落としかけた。自分の後ろで、二人が賢《さか》しい微笑をかわしてるような気がした。振り向いてみると、二人の眼は目配《めくば》せをし合っていたが、すぐに素知らぬふうをした。――ジャックリーヌはその発見に心転倒した。自由に育てられた年若い彼女は、そういう種類の男女関係を、しばしば耳にしたりまた自分でも笑いながら話したりしたが、今やそうした母親を見出すと、堪えがたい苦しみを覚えた……。自分の母が……いや、それは他の事と同一にはならない!……彼女はいつもの誇張癖のため、極端から他の極端へ走った。それまでは何一つ疑ったことがなかった。けれどそれ以来は、すべてのことを疑った。母の過去の行ないのいろんなことを、一生懸命に細かく考察してみた。そしてもちろんランジェー夫人の軽佻《けいちょう》さは、そういう嫌疑《けんぎ》に豊富な材料を与えるものだった。ジャックリーヌはそれへさらに尾鰭《おひれ》をつけた。彼女は父のほうへ接近したかった。母より父のほうがいつも自分に近かったし、
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