のマルトはそれを行なっていなかった。比較してみざるを得なかった。子供の眼は、大人《おとな》が看過してる多くの虚偽をもとらえるものである。また多くの弱点や矛盾をも見てとるものである。ジャックリーヌが観察したところによると、母親やまたは信仰してると言ってる人々も、信仰のない者と同じように死を恐れていた。いや信仰も十分の支持ではないのだった……。なおその上に、自分自身のいろんな経験、反発心、嫌悪《けんお》の念、癪《しゃく》にさわるへまな聴罪師、などがあった……。彼女はやはり務めを行なってはいたが、別に信仰あってするのではなく、ちょうど育ちがいいからといって社交界に出てるのと同じだった。宗教も社交界と同じく、彼女には空虚なものに思われた。彼女の唯一の頼りは死んだ叔母の思い出であって、彼女はそれに包み込まれた。先ごろは幼い利己心のため閑却しがちであり、今日では利己心によっていたずらに呼びかけてるその叔母《おば》にたいして、たいへん済まない気がした。彼女は叔母の面影を理想化した。そして叔母が残してくれた深い専心的な生活の大きな実例は、彼女をしてますます、不真面目《ふまじめ》な虚偽な社交的生活を厭《
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