を啄《ついば》んでるとわかってるその病気を恐れていて、それから考えをそむけていた。彼女の全努力は、最後の数か月の平和な気持を乱すまいとすることだった。終焉《しゅうえん》は人が思ったよりも早かった。彼女はやがてジャックリーヌのほかはだれにも会わなくなった。つぎには、ジャックリーヌに会う時間もしだいに短くならざるを得なかった。つぎには、いよいよ別れる時が来た。マルトは、数週間以来離れたことのない寝床に横たわって、ごく静かな慰めの言葉で、その小さな友だちにやさしく別れを告げた。それから、彼女は室に閉じこもって、死んでいった。
ジャックリーヌは幾月も絶望のうちに過ごした。彼女はその精神的|苦悶《くもん》からマルト一人によって守られていたのであるが、ちょうどその苦悶のもっともひどいときにマルトに死なれたのだった。彼女はすっかり見捨てられた心地がした。何か自分の支持となる信仰でもあればよかった。そしてその支持も欠けてはいないはずだった。いつも宗教的な務めを行なわせられていた。母もまたそれを几帳面《きちょうめん》に行なっていた。しかしそれが問題だった。母は宗教上の務めを行なっていたが、叔母《おば》
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