ないのか。」
ジャックリーヌは顔色を変えた。そして震える声で、叔母がどういう病気であるかを尋ねた。なかなか教えてもらえなかった。けれどついに、マルトは腸の癌腫《がんしゅ》で死にかかってるのだということを知り得た。もう数か月前からの病気だった。
ジャックリーヌは恐惶《きょうこう》の日々を送った。叔母に会うと多少安心した。仕合わせにもマルトはあまり苦しんではいなかった。やはりいつもの落ち着いた微笑を浮かべていて、それが透き通った顔の上に、内心の燈火の反映のように見えていた。ジャックリーヌは考えた。
「いえ、そんなことはない。間違いだわ。病気ならこんなに落ち着いていらっしゃるはずはない……。」
彼女はまた小さな胸に秘めてる話をうち明け始めた。マルトはそれにたいして前よりいっそうの同情を示してくれた。ただときどき、話の最中に、叔母は室から出て行った。苦しんでる様子は少しも見せなかった。発作が過ぎ去って顔だちも平穏に返ってから、またそこに出て来た。彼女は自分の容態に関する話を厭《いや》がっていた。容態を人に隠そうとしていた。おそらく自分でもあまりそれを考えたくなかったのであろう。彼女は自分
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