かった。でも叔母だけはその悶えを察してくれて、憐《あわ》れみの情を寄せてくれた。叔母はなんとも言いはしなかった。ただ微笑《ほほえ》んでいた。テーブル越しに、ジャックリーヌと温情の眼つきをかわした。ジャックリーヌは叔母から理解されてるのを感じて、そのそばへ身を寄せた。マルトは彼女の頭に手を置いて、口をつぐんだまま撫《な》でてくれた。
 娘は信頼の念を起こした。胸がいっぱいになるときには、大きな友だちたる叔母をたずねていった。いつやって行っても思ったとおりに、いつも変わらぬ寛大な眼に出会い、その眼の落ち着きを多少心に注ぎ込まれるのだった。彼女は空想の恋心地をほとんど話さなかった。恥ずかしい気がした。ほんとうのものではないと自分でも感じていた。しかしいっそう真実な、ただ一つの真実な、ぼんやりした深い不安を話した。
「叔母《おば》さま、」と彼女はときおり溜息《ためいき》をついた、「私ほんとに幸福になりたいわ。」
「まあかわいそうに!」とマルトは微笑《ほほえ》みながら言った。
 ジャックリーヌは叔母の膝《ひざ》に頭をもたせ、自分を撫でてくれてるその手に接吻《せっぷん》した。
「私幸福になれましょ
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