女自身からも知られずに――運命の痕跡《こんせき》が、すでに彼女を啄《ついば》み始めてる内部の病苦が、存していた。――けれども、ランジェー夫妻の眼には彼女の澄みきった眼つきしか映らなかったし、その眼つきに彼らは時とすると不安を覚えた。
 ジャックリーヌは、呑気《のんき》な楽しいとき――初めはいつもたいていそうだったが、そのときには、叔母《おば》へほとんど注意を向けなかった。けれどある年齢に達すると、身体と魂とのなかに不安な作用がひそかに起こってきて、そのために彼女の一身は、幸いにも長くはつづかないがしかし死ぬような気がする馬鹿げた獰猛《どうもう》な逆上のおりおりに、苦悩や嫌悪《けんお》や恐怖や狂的な悲しみに陥ってしまった――おぼれながら「助けて!」と呼ばわることもしかねる子供のようになってしまった――そのときに、彼女は自分のそばに、こちらへ手を差し出してくれる叔母マルト一人を見出した。ああ他の人たちはいかに遠くにいたことだろう! 父も母も他人と同じで、その懇篤な利己心だけしかもたず、自分自身に満足しきっていて、人形に等しい十四歳の彼女の小さな胸の悶《もだ》えなどは、考えてくれようともしな
前へ 次へ
全339ページ中45ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング