な感知した。彼女の眼をのがれる事柄はあまりなかった。兄の家で見てとられる多くの事柄に、彼女は気を悪くしたり悲しんだりした。しかし様子には少しも現わさなかった。現わしたってなんの役にたとう? 元来彼女は兄を愛していたし、一家の他の人々と同じように、兄の知力と成功とを自慢にしていた。一家の人々は、長子の大成功にたいしては自分たちの困窮などはなんでもないことだと思っていた。が彼女は少なくとも自由な批判を失わなかった。兄と同じく怜悧《れいり》であり、精神的には兄よりもいっそう鍛錬されいっそう雄々《おお》しかったので――(男まさりのフランス婦人の多くは皆そうである)――彼女は兄の心中を明らかに見てとっていた。そして兄から意見を求められると、腹蔵なく思うところを述べた。しかし兄はもうだいぶ前から意見を聞かなくなった。何にも知らないほうが用心深いことだと思い――(なぜなら彼は彼女くらいにはなんでも知っていたから)――あるいは眼を閉じてるほうが用心深いことだと思っていた。で彼女は気位を高くもって一人遠のいた。だれも彼女の内生活に気を向ける者はいなかった。またそれを知らないほうが好都合でもあった。彼女は
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