狂人に相当する。
 彼女は社交界に多く顔を出した。彼女に魅せられてる多くの青年らに取り囲まれ、一人ならずの者から恋されていた。しかし彼女はそのだれをも愛しないで、皆とふざけていた。自分がどんなに人を苦しめてるかは顧みもしなかった。美しい娘は恋愛を残忍な遊戯となすものである。人に恋されるのは至って当然のことだと見なしていて、自分の愛する者にたいする場合を除いては、何にも負い目がないと思っている。自分を恋してる男はすでにもうそれだけで十分幸福だと、好んで思いがちである。ただ彼女の弁護となる一事は、彼女は一日じゅう恋愛のことを考えてはいるけれど、恋愛のなんたるやを少しも知っていないことである。温室的な空気の中に育った社交界の若い娘は、田舎《いなか》の娘よりも早熟だと人は想像しがちであるけれど、事実はその反対である。読書や会話は、彼女のうちに恋愛の妄想《もうそう》を作り出して、それが無為閑散な生活のうちでは、しばしば恋愛狂に似寄ってくることが多い。時とすると彼女は、一編の物語の筋を前から読んでいて、その言葉をすっかり暗誦《あんしょう》してることさえある。したがって彼女はそれを心には少しも感じな
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