の未来を隠してる古壁の石にしがみつき、爪先《つまさき》で伸び上がって、その向こうを見ようとした。しかしどんなことをしても、壁の割れ目からいくらのぞこうとしても、まったく何にも見てとれなかった。彼女らの性質は、無邪気と詩的な放縦《ほうしょう》とパリー的な皮肉との混和したものだった。みずから知らずに大袈裟《おおげさ》なことを口にしながら、ごく単純な事柄で自分の世界を組み立てていた。ジャックリーヌは、だれからもとがめられずに、方々を捜し回り、父のあらゆる書物をこそこそのぞいてみた。が幸いにも彼女は、ごく清らかな少女の潔白さと本能とによって、悪いものに出会っても汚されなかった。多少露骨な場面や言葉に接しただけで、もう厭《いや》になってしまった。すぐさまその書物を手放して、卑しい連中のまん中を通りすぎた。あたかも、きたない水たまりの中にはいってびっくりしてる――しかも泥水《どろみず》のはね返りを少しも受けない――猫《ねこ》のようなものだった。
彼女は小説へは心ひかれなかった。小説はあまりにはっきりしていてあまりに干乾《ひから》びていた。感動と希望とで彼女の胸を波打たせるものは、詩人の書物だった
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