。ときどき風がさっとその片影を吹き送って来た。それがどこから出て来るかはわからないが、それに包み込まれて、顔が真赤《まっか》になる心地がし、恐《こわ》さとうれしさとで息もつけなかった。なんのことだか訳がわからなかった。それにまた、それは来た時と同じようにふっと消えてしまうのだった。もう何にも聞こえなかった。かすかなそよぎ、それとわからないほどの余韻が、青い空気中にうっすり残ってるのみだった。けれど、かなた山の向こうにそれがあること、そこへ行かなければならないこと、できるだけ早く行かなければならないこと、それだけはわかっていた。そこに幸福があるのだった。ああそこまで行けさえしたら!……
そこへ達するのを待ちながら彼女は、やがて見出そうとするものにたいして、不思議な想像をめぐらしていた。彼女の少女としての知力にとっての重大事は、それを推察するということだったのである。彼女にはシモーヌ・アダンという同年配の友があって、この重大な問題についていっしょに話し合った。自分の知識や、十二年間の経験や、聞きかじった話や、ひそかにぬすみ読んだ事柄などを、たがいにもち寄った。そして二人の少女は、自分たち
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