与えるのだった。かくて娘はひどく甘やかされた。ただ仕合わせなことには、彼女は性質中に何にも悪いものをもってはいなかった――利己心を除いては。ただしこの利己心は、すべての子供にほとんど共通なものではあるが、あまりに大事にされる金持ちの子供にあっては、障害のないことからくる病的な形をとるものである。
 ランジェー夫妻は、娘を鍾愛《しょうあい》しながらも、自分一身の安逸を少しも犠牲にしたがらなかった。一日の大半は娘を一人放っておいた。それで娘は、夢想する時間に少しも不足を覚えなかった。彼女は早熟であるうえに、自分の前でされる不謹慎な話――(人々は彼女に少しも遠慮をしなかった)――からすぐに啓発されて、六歳になったときにはもう、夫や妻や情人を人物とするちょっとした恋物語を、人形に話してきかせるようになった。もとより彼女のほうに悪心は少しもなかった。けれどそれらの言葉の下にある感情の影をちらと見た目から、人形へ話すのはふっつりよしてしまって、その詩を自分自身だけのものとした。彼女のうちには無邪気な情欲の素質があって、それが地平線の彼方《かなた》はるかな眼に見えない鐘のように、遠くで鳴り響いていた
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