結婚――(彼らにとっては真の恋愛結婚)――をしたのだった。金銭は残っていたが、愛情は飛び去ってしまっていた。それでもなお多少の火花が消えずにいた。なぜならどちらの愛欲もきわめて強烈だったから。しかし彼らは大袈裟《おおげさ》な貞節観念を鼻にかけてるのではなかった。各自に自分の仕事や快楽を追い求めていた。そして、利己的な気ままな抜け目ない好伴侶《こうはんりょ》として、よく気が合っていた。
彼らの娘は、二人の間の連繋《れんけい》であるとともに、暗黙な競争の種となった。二人とも娘を嫉妬《しっと》深いほど愛していた。どちらも娘のうちに、好ましい欠点をそなえてる自分の姿を見出し、その欠点は娘の優美のために理想化されて眼に映った。そしてたがいに娘を奪い取ろうと内々努力した。娘のほうでは、全世界が自分のまわりに引きつけられてると信じがちな子供特有のずるい無邪気さをもって、そのことを感ぜずにはいなかった。そしてそれにつけ込んだ。両親の間にたえず愛情のせり上げを起こさした。どんなわがままでも、一方から拒まれるときっと他方から承知された。すると一方は先を越されたことに困って、他方が与えた以上のものをすぐに
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