て彼をとらえた。
 それは痩《や》せた愛くるしい金髪の娘だった。狭い澄んだ額のまわりに漣《さざなみ》のように揺らいでる細やかな髪の毛、やや重たげな眼瞼《まぶた》の上のすっきりした眉《まゆ》、雁来紅《がんらいこう》の青みをもった眼、小鼻のぴくぴくしてる繊細な鼻、軽く凹《へこ》みを帯びた顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》、気まぐれらしい頤《あご》、隅《すみ》がやや脹《ふく》れてる利発な逸楽的な口、パルメジアニノ式の純潔な小半獣神みたいな微笑、それから長い細《ほっ》そりした首、ほどよく痩せた身体をもっていた。何かある楽しげな気がかりらしい色が浮かんでるその若々しい顔は、眼覚《めざ》めくる春――春の覚醒[#「春の覚醒」に傍点]――の不安な謎《なぞ》に包まれていた。彼女はジャックリーヌ・ランジェーという名だった。
 彼女はまだ二十歳になっていなかった。自由な精神をそなえたカトリック教の富裕なりっぱな家庭だった。父親は、発明の才ある怜悧《れいり》なさばけた技師で、新思想を歓迎していた。勤勉と政治的関係と結婚とで財産をこしらえていた。財界におけるパリー風な美しい女との、恋と金との
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