に出会って驚いた。若い音楽家で、精気と才能とを十分にもちながら、成功のために廃頽《はいたい》して、自分を窒息させる阿諛《あゆ》の香を嗅《か》ぐことばかり考え、享楽し眠ることばかり考えてる者があった。そしてその二十年後の姿は、客間の他の隅《すみ》にいる老大家のうちにちょうど現われていた。その老大家は、煉脂《ねりあぶら》を塗りたて、金持ちで高名で、あらゆる学芸院の会員であり、最高位に上りつめていて、もはや何も恐るべきものも仮借《かしゃく》すべきものもないらしく見えながら、あらゆる人の前に平伏し、世論や権力や新聞雑誌の前にびくびくし、もう自分の考えもあえて口に出さず、そのうえもはや考えることもなく、もはや生存することもなく、自分自身の残骸《ざんがい》をになってる驢馬《ろば》となって公衆の前に身をさらしていた。
 それらの芸術家や才士は、過去に大人物であったかもしくは大人物になり得られるはずであったが、その各人の後ろにはかならず女が隠れていて、その女から身を滅ぼされてるのであった。どの女も皆危険だった、愚かな女も愚かでない女も、人を愛する女も我が身を愛する女も。そしてすぐれた女ほどさらに危険だ
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