に言わせると、クリストフは天才はないにしても、執拗《しつよう》な勉励でりっぱな運命をかち得られるのに、悪質の香《かお》りで酔わされて、未来を駄目にされてるのだった。それは実に気の毒なことだった。彼を明るみに引っ張り出さないで、辛抱強く勉強さしておくことが、なぜできなかったのか?
オリヴィエはりっぱに答え返し得たはずである。
「勉強するためには、食べなければならない。だれがクリストフにパンを与えてくれるか?」
しかし彼らはそんなことにまごつきはしなかったろう。いかにも従容《しょうよう》として答えたに違いない。
「そんなことは些事《さじ》にすぎない。人は苦しまなければいけない。」
もとより、そういう堅忍論を公言する者は、安楽な人々であった。ある正直者が財産家のもとへ、一人の困ってる芸術家を助けてくれと頼みに行ったとき、その財産家はつぎのように言ったそうである。
「しかし君、モーツァルトは困窮のために死んだではないか。」
ところが、モーツァルトは生きるのが本望だったことや、クリストフは生きようと決心してることなどを、オリヴィエが彼らに言ったとしたら、彼らはそれを悪趣味だと考えるに相違
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