うかしら。ねえ、叔母さま、幸福になれましょうかしら?」
「私にはわかりませんね。でもそれはいくらかお前さんしだいですよ……。幸福になろうと思えば、人はいつでも幸福になれます。」
ジャックリーヌは信じかねた。
「叔母さまは幸福でいらして?」
マルトは愁《うれ》わしげな微笑をもらした。
「ええ。」
「嘘《うそ》? ほんとう? 幸福でいらして?」
「お前さんはそう思いませんか。」
「思ってますわ。でも……。」
ジャックリーヌは言いやめた。
「なあに?」
「私は幸福になりたいんですけれど、叔母《おば》さまのような幸福にはなりたくありませんの。」
「まあかわいそうに! 私もそう望んでいますよ。」とマルトは言った。
「いいえ、」とジャックリーヌはきっぱり頭を振りながら言いつづけた、「第一、私は幸福にはなれそうにありませんもの。」
「私だってそうですよ。幸福になれようとは思っていませんでした。けれど人は世間から教わって、いろんなことができるようになるものです。」
「いいえ私は、教わりたくありませんわ。」とジャックリーヌは不安げに抗弁した。「思いどおりの幸福な身になりたいんですの。」
「でもどういうふうにだかは自分にもわからないでしょう。」
「自分の望みははっきりわかっていますわ。」
彼女は多くのことを望んでいた。しかしそれを口に出す段になると、いつも反誦《はんしょう》句のように繰り返されるただ一つのことしか見出せなかった。
「第一に人から愛されたいのですわ。」
マルトは黙って編み物をしていた。ちょっとたってから彼女は言った。
「そしてお前さんのほうで愛していなければ、それがなんの役に立ちましょう?」
ジャックリーヌは狼狽《ろうばい》して叫んだ。
「いいえ叔母さま、好きな人のことだけを言ってるのよ! 他のものはどうでもいいんですわ。」
「そしてお前さんがだれも愛していないとしたら?」
「まあそんなことが! いつでも、いつでも、愛するものはありますわ。」
マルトは疑わしい様子で頭を振った。
「人はそんなに愛するものではありません。」と彼女は言った。「愛したいと思ってるだけです。愛することは、神様のいちばん大きなお恵みです。お前さんもその恵みを授かるように神様にお願いなさい。」
「そしてだれも私を愛してくれませんでしたら?」
「人が愛してくれなくても同じです。お前さんはな
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