おいっそう幸福になるでしょう。」
 ジャックリーヌの顔は間延びて、不平げな様子になった。
「私いやですわ。」と彼女は言った。「そんなではちっとも楽しくなさそうですもの。」
 マルトはやさしく笑い、ジャックリーヌをながめ、溜息《ためいき》をつき、それからまた編み物にとりかかった。
「かわいそうに!」と彼女はまた言った。
「どうして叔母《おば》さまはいつも、かわいそうにとおっしゃるの?」とジャックリーヌは不安げに尋ねた。「私かわいそうなものにはなりたくありませんわ。ほんとに、ほんとに幸福になりたいんですわ。」
「それだから私は、かわいそうに! と言ってるのです。」
 ジャックリーヌは少し口をとがらした。しかしそれは長くつづかなかった。マルトの善良な笑顔に彼女は気が折れた。彼女は怒ったふうをしながらマルトを抱擁した。実際人はこの年ごろでは、将来の、はるかな将来の、悲しい予想から、ひそかに媚びられずにはいられないものである。遠くから見ると、不幸は詩の円光を帯びてくる。もっとも恐ろしく思われるものは、平凡な生活である。
 ジャックリーヌは、叔母《おば》の顔がいつもますます蒼《あお》ざめてゆくのに、少しも気づかなかった。ただ叔母がますます外出しなくなることは、よく見てとった。しかし彼女はそれを出嫌《でぎら》いの癖のせいだと見なして、それを笑っていた。訪れてくるとき一、二度、医者が帰ってゆくのに出会った。彼女は叔母に尋ねた。
「叔母さまは御病気でいらして?」
 マルトは答えた。
「なんでもありません。」
 しかしもう彼女は、ランジェー家の一週一回の晩餐《ばんさん》にも来なくなった。ジャックリーヌは腹をたてて、苦々《にがにが》しく小言を言いに行った。
「でもねえ、」とマルトは静かに言った、「私は少し疲れていますから。」
 しかしジャックリーヌは何にも耳に入れようとしなかった。そんなことが言い訳になるものか!
「一週に二、三時間家に来てくださるのに、そんなにお疲れなさるんでしょうか。叔母さまはもう私を愛してくださらないんでしょう。御自分の家の暖炉の隅《すみ》ばかりを大事にしていらっしゃるのでしょう。」
 けれど、彼女が家に帰って、小言を言ってやった由を得意げに話すと、ランジェーは彼女をきびしく戒めた。
「叔母《おば》さんに構ってはいけない。気の毒にも重い御病気であることを、お前は知ら
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