彼と結合した心地がした。そして二人は年ごとにますます密接に結びついた。いっしょに美《うる》わしい夢想を描いた。仕事や旅行や子供の夢想だった。そしてそれはどうなったか?……悲しいかな!……でもアルノー夫人はやはり夢想をつづけていた。夢想の中に一人の子供がいた。彼女はその子供のことを、あまりにしばしばあまりに深く考えたので、実際そこにいるかのようによく知っていた。幾年となくそのほうへ考えを向けて、自分の見たもっとも美しいものや自分の愛したもっともかわいいもので、たえずそれを飾りたてていた……。そして、沈黙!……
 それがすべてだった。それが彼女の世界だった。ああいかに多くの人知れぬ悲劇が、もっとも深い悲劇さえもが、外観は至って静穏平凡な生活の奥に、隠れていることであろう! そしておそらくもっとも悲壮なのは、それら希望の生活のうちに、何事も起こらない[#「何事も起こらない」に傍点]ということである――自分の権利であるところのものに向かって、自然から約束されそして拒まれた自分の所有物であるところのものに向かって、絶望的な叫びをあげ――熱烈な苦悩のうちに身をさいなみ――しかも外部にその様子を少しも示さない――それら希望の生活のうちに、何事も起こらない[#「何事も起こらない」に傍点]ということである。
 アルノー夫人は自分の幸福のために、自分のことばかりに没頭しているのではなかった。彼女の生活は、彼女の夢想の一部をしか満たしていなかった。彼女はなお、今知ってる人々や昔知った人々の生活をも、みずから生活していた。それらの人々の地位に身を置いていた。クリストフのことを考え、友のセシルのことを考えていた。今日も彼女はセシルのことを考えていた。二人はたがいに愛情をいだいていた。不思議なことには、二人のうちの強健なセシルのほうがいっそう、かよわいアルノー夫人によりかかりたがっていた。この快活な丈夫な大きな娘は、実は、見かけほど強くはなかった。彼女はちょうど危機を通っていた。もっとも沈着な心の人でさえ、意外な羽目に陥ることがある。彼女のうちにはごくやさしい一つの感情がはいり込んでいた。彼女は初めそれを認めたくなかった。しかしそれはしだいに大きくなってきて、眼に留めないわけにゆかなくなった――彼女はオリヴィエを愛してるのだった。その若者の静かなやさしい振る舞い、その身体つきのやや女性的な美《
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