わらせた。こだわりのないあざけり気味で、自分のことを話して、危うく死ぬところだったと言った。彼はびっくりした様子を見せた。すると彼女は茶化した。彼は何にも知らせなかったことを難じた。
「お知らせするんですって、あなたに来ていただくために! そんなことをするものですか。」
「きっとあなたは、僕のことなんかは考えもしなかったんですね。」
「そのとおりよ。」と彼女はやや悲しげな冷笑を浮かべて言った。「病気のうちはちょっとも考えなかったんですの。まったく今日が初めてですわ。寂しいことだと思っちゃ厭《いや》ですよ。私病気のときは、だれのことも考えないんです。ただ皆さんにお願いすることは、静かにさしといてほしいということだけですの。そして壁と鼻をつき合わして、じっと待ってるんです。一人ぽっちでいたいんです。鼠《ねずみ》のように一人ぽっちで死んじまいたいんですの。」
「けれど一人で苦しむのは辛《つら》いことです。」
「私は馴《な》れっこですわ。長い間不幸な身の上でしたの。だれも助けに来てくれませんでした。
 今ではそれが癖になってるのでしょう……。それに、そのほうがかえってましですわ。だれがいたって何にもなりはしませんもの。室の中の物音や、煩わしい注意や、表面《うわべ》ばかりの悲嘆や……厭《いや》ですわ。一人ぽっちで死ぬほうがましですわ。」
「あきらめきってるんですね。」
「あきらめ? いえ私はそれがどんなことだかも知りませんわ。私ただ歯をくいしばって、自分を苦しめてる病気を憎んでやるんですの。」
 彼は、だれも見舞いに来てはくれないのか、だれも世話をしてはくれないのか、と彼女に尋ねた。彼女の答えによると、芝居の仲間は、かなり親切な人たちで――馬鹿な人たちで――しかも世話好きで、同情深い人たち(それも上っすべりの)であった。
「でも、まったく私のほうで、あんな人たちに会いたくないんですの。私つむじ曲がりですわね。」
「そこが僕は好きなんです。」と彼は言った。
 彼女はなさけなさそうに彼をながめた。
「あなたまでが! 他人《ひと》の口真似《くちまね》をなさるの?」
 彼は言った。
「許してください……ああ、僕もパリー人になっちゃったのか! 恥ずかしい……。まったく僕は考えなしに言ったんです……。」
 彼は夜具の中に顔を隠した。彼女はさっぱりと笑って、彼の頭を軽くたたいた。
「ああそ
前へ 次へ
全170ページ中81ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング